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Story

きょうも、たぶんだいじょうぶ

上のほうで何かが落ちる音がした。イッカクは布をかぶったまま、しばらく動かずに待っていた。

きょうも、たぶんだいじょうぶ
エピソード
第1話
サブタイトル
静かな朝と、帰るための一日
登場キャラクター
-
関連クリーチャー
-

目を覚ますと、上のほうで何かが落ちた音がした。

金属がぶつかる、乾いた音。

少し遅れて、床が小さく揺れる。

布を頭からかぶり、動かずに待つ。

さらに崩れる気配はない。

……大丈夫。

布をどかすと、薄暗い部屋に光が差し込んでいた。

この階層では、明るくなる時間を朝と呼んでいる。

体を起こすとき、天井に当たらないよう、自然と背中を丸めた。

角がある生活には、慣れている。

古いマントを引き寄せて羽織る。

縁はほつれているが、まだ使える。

立ち上がった拍子に、マントの前が少し開いた。

胸の中央に埋め込まれた丸い石が、一瞬だけ光を反射する。

緑がかった色。

それは、いつもそこにあった。

生まれたときから。

特に気にすることもなく、マントを整える。

「……今日は、あっちかな」

独り言は、誰に向けたものでもない。

外へ出ると、通路はすでに人の流れで満ちていた。

上の階層から降りてくる者。

下へ向かう者。

横穴へ消えていく者。

羽のある影、甲殻に覆われた背中、長い尻尾。

形は違っても、歩く速さは似ている。

頭上では、何層にも重なった構造物が空を隠していた。

その隙間から、時々なにかが落ちてくる。

今日は、小さな破片だった。

「おっと」

誰かが声を上げ、別の誰かが蹴り飛ばす。

そんなやり取りは、ここでは珍しくない。

流れの端を歩く。

真ん中は荷を持った者が多い。

ぶつかると痛いし、謝るのも面倒だ。

「おーい」

後ろから声がかかった。

「今日、こっち手空いてるぞ」

振り返ると、管理係が札を振っている。

「軽めでいい。運ぶだけ」

札をひらひらさせる。

ぼくは返事の代わりに、軽くうなずいて受け取った。

廃材の集積所へ向かう。

役目を終えた金属や部品が、山のように積まれている。

運ぶ。

積む。

下ろす。

それを、何度か繰り返す。

力は強くない。

角も、何かを突き刺すためのものじゃない。

それでも、休まずに動いていれば、仕事は終わる。

途中で一度、足を取られた。

金属片が崩れ、荷が傾く。

「あっ」

声を上げるより先に、横から手が伸びた。

「そっち持つよ」

ぼくは息を吐いて、荷を立て直す。

「……ありがとう」

「今日は不安定だからさ」

それだけ言って、その人は流れに戻っていった。

名前も知らない。

でも、それでいい。

日が傾くころ、仕事は終わった。

帰り道を、ゆっくり歩く。

疲れているはずなのに、足取りは軽い。

今日も、ちゃんと終われたから。

階層の隙間から、遠くの光が見えた。

上のほうだ。

あそこには、何があるのだろう。

考えたことは、何度もある。

でも、考えすぎると、眠れなくなる。

「……おい」

通路の向こうから、また声がする。

「イッカク。明日、早めにな」

ぼくは小さく手を上げた。

それで十分だと、ここでは分かってもらえる。

歩きながら、空を見上げる。

「……今日も、帰れた」

それだけで、今は十分だった。