Story
第2話「さがしもの」
今日は、少し遠い。朝の通路を抜け、イッカクは廃棄された船の山へ向かう。
今日は、少し遠い。
朝の通路を抜け、いつもより人の少ないほうへ向かう。
足元の地面は不揃いで、ところどころ沈む。
廃棄された船の山は、街の外れにある。
正確には、外れというほど整った場所でもない。
役目を終えたものが、集まっただけの場所だ。
視界に入るのは、折れ曲がった船体。
外殻の剥がれたエンジン部。
どこにつながっていたのか分からない配線。
積み重なり、絡まり、崩れかけている。
「……ここ、かな」
足を止め、周囲を見回す。
この山は、毎日少しずつ形が変わる。
昨日あった通路が、今日は塞がれていることもある。
慎重に、隙間へ足を入れる。
金属が軋む音がしたが、崩れる気配はない。
大丈夫。
イッカクは、目を凝らした。
探しているのは、大きなものじゃない。
使える部品。
まだ反応の残っている欠片。
どこかで、もう一度役に立ちそうなもの。
角で押し分けるように、瓦礫の間を進む。
背中のマントが、何かに引っかかる。
少し戻り、外してから進む。
慣れた動きだ。
奥のほうで、かすかな音がした。
……違う。
風だ。
ここでは、よくある。
しばらく探して、しゃがみ込む。
手のひらほどの装置が、半分埋もれていた。
表面に傷は多いが、完全には壊れていない。
イッカクは、それを持ち上げる。
重さを確かめ、軽く振る。
中で、小さく音がした。
「……まだ、いけそう」
独り言が、金属に吸い込まれる。
少し進んだところで、足元が崩れた。
踏み出した瞬間、地面が抜ける。
「っ」
体勢を崩し、片膝をつく。
胸の奥で、何かが鈍く揺れた。
マントの内側で、石が衣擦れする。
一瞬だけ、冷たい感覚が広がる。
それだけだ。
イッカクは息を整え、立ち上がった。
特別なことは起きていない。
周囲を見回すと、少し高い場所に、別の影が見えた。
誰かが、同じように探している。
目が合いそうになって、逸らす。
ここでは、それが普通だ。
邪魔をしない。
邪魔をされない。
それぞれが、それぞれの目的で来ている。
もう一つ、使えそうな部品を見つける。
今度は、慎重に。
腰の袋に入れると、少しだけ重みが増した。
十分だ。
帰り道、振り返る。
船の山は、何も言わず、そこにある。
明日も、形を変えながら。
通路へ戻るころ、空が少し明るくなっていた。
上の階層からの光が、隙間に落ちてくる。
イッカクは、胸元を押さえた。
石は、いつも通りそこにある。
「……今日は、悪くない」
そう思いながら、歩き出す。
今日も、帰れる。
それでいい。