Story
第4話「それぞれのじかん」
少し、お腹が減っていた。仕事帰りの通路は、いつもより人が多い。
少し、お腹が減っていた。
仕事帰りの通路は、いつもより人が多い。
足取りも、どこかゆるい。
この時間帯になると、匂いが混じる。
油の匂い。
甘い匂い。
焦げた何かの匂い。
家に帰れば、いつものものがある。
袋を開けて、水を足して。
それで終わりだ。
今日は——
少し、違ってもいい気がした。
通路の角を曲がると、店が並んでいる一帯に出る。
立ち食いの店。
持ち帰りだけの店。
座る場所が、二つだけの店。
声が飛び交い、器がぶつかる音がする。
知らない言葉も混じっているが、気にならない。
イッカクは歩きながら、ひとつの店の前で足を止めた。
果物が、山積みになっている。
この地域で採れる実だ。
「ひとつ」
店員がうなずき、実を手に取る。
ナイフを入れると、皮が割れた。
中から、鮮やかな色がのぞく。
果汁が、少し垂れた。
半分に割られたそれを、受け取る。
手のひらに、ずしりと重い。
立ったまま、かじる。
甘い。
でも、あとから少し酸っぱい。
汁が指に伝う。
気にせず、もう一口。
隣では、三人組が何か話している。
装備が多い。
声も大きい。
「賞金が——」
「期限が——」
そんな言葉が、断片的に聞こえる。
イッカクは、視線を向けない。
聞こうともしない。
人は人。
自分は自分だ。
果物の繊維を、歯で引きちぎる。
思ったより、うまい。
種を避けながら、最後まで食べる。
手が少し、べたつく。
布で拭く。
それでいい。
食べ終わるころ、三人組はもういない。
通路の音だけが、戻ってきていた。
殻になった皮を、店の箱に戻す。
「ごちそうさま」
店員は、軽く手を振った。
また歩き出す。
腹の奥が、少しだけ温かい。
それぞれが、
それぞれの時間を過ごしている。
今日は、そんな日だった。